『夢を与える』綿矢りさ(河出書房)
夢を与えるとは、他人の夢であり続けることなのだ。だから夢を与える側は夢を見てはいけない。
2007年2月発行。芥川賞受賞作。
(こちらも2007年かあ。内容的に、去年あったゲスい事件を思い浮かべながら読んでしまった。)
主人公「夕子」が生まれる前の 母「幹子」と 父「トーマ」の別れ話から始まり、夕子がチャイルドモデルを経て芸能界でブレイク。そして失墜までの20年以上を息をつく間もなく一気に読ませる作品。
幹子と夕子というふたりの女性目線で話が進むからなのか、
それを取り巻く男性(父親のトーマ、そして正晃)がふたりを裏切り傷つけようと、
ふたりのこころの底に溜まって放り出すことのできない愛情なのか執着なのかに共感してしまっていたのか「ひどいな」と思いつつも憎めなくて不思議な読後感だった。
からっとあかるくてあたたかい「光」のような多摩の存在は救い。
「正晃は私のまんなかに君臨しているのに、どうして私は正晃の心の片隅に吹きだまる砂粒くらいの存在感しかないの」
夢を与えるはずだった夕子がみた夢は、同年代の娘のそれとなんら変わりはないはずなのに。
とにかく女性の心理描写がすごい。
「恋」からはじまったはずが、いつのまにか「執着」に変わっていく描写に自身の経験を重ねて 心の底から湧いてくる黒くて重い気持ちに何度も目を伏せたくなった。
一度持ってしまった「執着」って、よくないと気付きつつもなかなか手放せない。
そして、きっとそれは恋愛だけじゃない。
もしかしたら、使いようによっては ものすごい原動力にもなるのかもしれない。