=== memo ===

こつこつ読書感想文📝

『たった、それだけ』宮下奈都(双葉社)

「かまわないじゃないか。逃げているように見えても、地球は丸いんだ。反対側から見たら追いかけてるのかもしれねーし。」


すべて希望にみえる、いろいろなかたちの「逃げる」話。

贈賄の疑いがかけられた「望月正幸」が失踪した。

愛人、妻、姉、娘、、、、
それぞれの視点で語られる「正幸」とそれぞれの「こころ」、そして、「逃げ」と「変化」

「ルイはルイだ。」
俺が断言すると、ルイは泣きながらもこくりとうなずいた。

俺は自分に言い聞かせているのだ。博打に入れ上げ、多額の借金を残してさっさと自殺してしまった実の父親の呪縛から、逃れようとしている。

いや、逃げるのとは違うのかもしれない。逃げても追いかけてくる。逃げても逃げても安心できない。立ち止まって、振り返って、追いかけてくる不安に面と向かって、俺は俺だと言う。たぶん、それが必要だった。

俺は俺だ。たった、それだけ。その簡単な言葉が言えなかった。空を仰ぎ、灰色の雲が垂れ込めているのが見る。俺は、俺。笑ってしまいそうだ。俺はずっと俺だったのに。

「お母さんやお父さんが悪いとしたら、私は、ずっと、わ、悪いままで」


そう言って泣き出す「望月正幸」の娘「ルイ」に対しての須藤先生のセリフ。

「俺は俺」

とてもシンプルなんだけど、「家族」って良くも悪くも一生逃れることができないものですよね。

親や家族にコンプレックスって、ある人とない人がいるのでしょうか。
わたしは、あるほうで。(ルイや先生のような感じではないし、仲も悪いわけではないし、育ててもらってそんなこと思うのは贅沢なことなのかもしれませんが。)

 

今までもこれからも、ずっと、「娘」
だけど、「わたしはわたし」

 

このことを心の片隅に置いておきたいシーンでした。

 

逃げたのだとしても、それでよかったのだ。逃げた先でいつかもっといいものに出会えるかもしれない。それを誰にも否定することはできない。あきらめてもいい。むしろ勇気の要ることだと思う。いくらでもあきらめて、また始めればよかったのだ。

逃げたことが、もしくは、逃げようとしたことがある人に捧げたい金言。

 

この一節が響いたひとには、この曲も一緒に捧げたい。

「早く着くことが全てと僕には思えなかった」
「数え切れないほどなくしてまた拾いあつめりゃいいさ」

これもなつかしい曲だけど、色褪せない。かっこいいな。


ELLEGARDEN ジターバグ @ devilock3 Zepp Tokyo


読むのになれてきたのか、200ページぐらいの文庫だと、
一日(片道1時間の通勤時間)で読み終われるようになりました。

女性作家ばかり手に取ってしまうので、普段読まないジャンルも読みたいなと思いつつ。 う〜ん。

『すべて真夜中の恋人たち』川上未映子(講談社)

「しょせん何かからの引用じゃないか、自前のものなんて、何もないんじゃないのか」
「悲しいもうれしいも、自分のものじゃなくてどこかの誰かがいつか感じただけのもので、わたしたちはそれをなぞってるだけにすぎないのよ。」

 

「だって、人間の本質って、悪じゃない?」


桐野夏生さんとのトークイベントでそうおっしゃていた川上未映子さん。

そうか〜そうなのか〜〜?と思い出しながら読んだ。

 

校閲という仕事以外何も持たない「入江冬子」が、聖に出会い、三束さんに出会い恋をして、違う色へ変化していく人間ドラマ。

うつくしさやキャリアもすべて持っている女性と、そうでない(もしくは失っていく)女性の対比が毎回すごくて、くらくらします。
グロテスクなものを目の前に どん、と置かれたような。

「なんで入江くんにこんな話できたかっていうとね」

「それは、入江くんがもうわたしの人生の登場人物じゃないからなんだよ」

 ほら、

ハッとして、ゾッとしない?

「楽なのが好きなんじゃないの?他人にはあんまりかかわらないで、自分だけで完結する方法っていうか。そういうのが好きなんでしょ。」
「要するに、我が身が可愛いのよ。」

はい。いまのわたしです。自分を可愛がりまくりです。
(後ろから鈍器で殴られたような気持ち!泣)

 

そんな「我が身が可愛い」コミュ障気味の冬子が、 三束さんという光にふれたくて距離を縮めていく様子は胸がしめつけられます。

 

すきな人の目をこんなにも近くでみつめることがこんなにも鮮やかでやさしく、体のいちばん奥のあたりからうまれかわるような思いのするものなのか

 

真夜中に目が覚めて、恋人(すきなひと)が隣で寝ているのをまじまじみつめる多幸感ったらないよね。あーあ。


Fishmans with Pocopen「あの娘が眠ってる」

『新しい文章力の教室 苦手を得意に変えるナタリー式トレーニング』唐木元(インプレス)

良い文章とは完読される文章である。

 

なんて明確なのでしょう。

ただなんとなくこの読書感想文ブログを書いていても、なんの力にもならないなあと思い手に取りました。 ほら、ピラティスの先生も、続けることと同じくらい工夫をしていくことも大事だっておっしゃっていたし。

 

ナタリーの記者さんはこのメソッドで書いているんですね。
こんなトレーニングを受けられるなんて、うらやましい!

 

ざっくり自分がひっかかったポイントだけ。
詳しく知りたくなった方はぜひ買って読んで下さい。
第2章以降は、辞書のように使えそうです。

第1章 書く前に準備する
「書けない」の実情は、「遅い」「まとまらない」「伝わらない」のどれか、もしくは3つともです。

・文章は「事実」「ロジック」「言葉づかい」のレイヤーで積み重なっている。
・「構造シート」で主眼と骨組みをまとめる。
・基本の構成は「サビ頭」 (例)結論-問題提起-状況説明-付帯情報

第2章 読み返して直す
「完読」を目指すためには、意味は脳、地面は目、語呂は耳、と複数の感覚器を使って、立体的にブラッシュアップをする必要があります。

・文章は意味、字面、語呂の三つの見地で読み返す。
・文末のバリエーションに気を配る。
・時制を混在させて推進力を出す。(書き手の意識が「過去の時点からみた現在」であれば、過去の出来事を現在形で書いても成り立つ。逆も然り。)
・漢字とかなのバランスに注意し、目で見て「ほど良いグレー」を目指す。

第3章 もっと明快に
完読のためほんとうに目指すべきことは、適切な長さの文章、適度に締められた文章だということ。

・余計な言葉を削る。
・ときには言い切るキャッチーさを。

第4章 もっとスムーズに
文章を「適切なスピード感」にコントロールしよう。

・一般性のない言葉を説明抜きに使わない。
・文頭一語目の直後には濁点を打たないほうが、多くの場合スマートに感じられる。
・便利な「こと」「もの」は、重複しやすく表現がくどくなりがちのため減らす努力を。

第5章 読んでもらう工夫
文章を伝える工夫は仕事の基本にも通じる。

・オリジナリティは客観的な事実に宿る。
・数字を入れると具体性が増す。
・見出しも約物(!など記号)に頼りすぎない。
・インタビューの基本は「同意」と「深掘り」
・予想外の答えにこそ「おいしい」内容が現れる。
・「完読」というゴールのために柔軟にルールを使いこなす。

 

cakesで連載されていたんですね。

試し読みしてもいいかも。

cakes.mu

 

この感想文を書くにあたって、この本の通り「構造シート」を作成しました。
 結論 - 問題提起 - 状況説明 - 付帯情報 
を意識したのですが、どうでしょう。って!練習あるのみ!デスヨネ〜〜

 

高校生の時、ちょっとだけ放送局に所属していて。
アナウンス原稿を書くのがすきだったんです。
もう全然メソッドを覚えていないのですが、「どう話したら伝わるか」を考えて何回も文章を組み立て直していたなあ。なつかしい。だからなのか、今もこうやって考えることはまったく苦じゃない。むしろ楽しい。
あの頃、こんな武器を手に入れていたら卒業まで続けていたのかしら。
なーんて。青春プレイバック。

千里の道も一歩から!

文章力を磨いておいて損はないはず。
これからも、この本を指標にトレーニングするぞ〜〜

 

冒頭で読者の興味をグイっと引きつけ、関心をキープしたまま、目標である「完読」までこぎ付ける。

 

という一節で浮かんだ一曲。文章って音楽とも似ているのかな。
引きつけられないと最後まで聞く気しないもんね。

 


KANA-BOON / ないものねだり