『博士の愛した数式』小川洋子(新潮社)
博士の記憶は、80分しか持たない。
博士と、家政婦の主人公とその息子「√(ルート)」との親愛の記録。
算数・数学が嫌いな学生さんにぜひ読んでもらいたいな。
博士はしばしば、自分の導き出した回答に満足しつつ、
「ああ、静かだ」とつぶやいた。
正解を得た時に感じるのは、喜びや解放ではなく、静けさなのだった。あるべきものがあるべき場所に収まり、一切手を加えたり、削ったりする余地などなく、昔からずっと変わらずそうであったかのような、そしてこれからも永遠にそうであり続ける確信に満ちた状態。
博士はそれを愛していた。
数式ひとつにも物語がある。
なにごとも愛があるひとから説明されると、自分にもその愛情が伝染する気がする。