『ハヅキさんのこと』川上弘美(講談社)
新しい環境でまだ自分のペースを掴みきれておらず、疎かになっている感想文。
なんだか1年前と自分の気持ちも変わっていて、ついつい会った人と話し込んでしまうんだよね。たった1年だし、その期間も仲のいいひととは会っていたのにな。
「あなたのことをもっと知りたいんです」
まさに そんな気持ち。
それは、本を読んできたからも関係がある気がする。
本で、色々な考えに触れて自分に潜っていたら、前より許せることも多くなったし、むしろ生身のひとの自分と違う考えがもっと知りたくって、うずうずしている。
そんな 現状。
さて、気持ちを切り替えて。
数ページの短編集。
エッセイを書こうとしたら掌編小説になったもの、なんですね。
「虚と実のあわい」というのも納得。
見当はずれかもしれないけれど、「だめなものはだめ」だったり「体がね、しっとりしますよ」だったり、誰かのくちからぽろりとでたセリフから広がったのかしら。
一遍にひとつは必ず、手が止まるセリフがあったんですよね。
とても生き生きとしていて、耳に残る。
いつか町子が部屋を突然出ていってしまうことが、私は恐かったのだ。私は町子に執着しはじめていた。好き、というのとは違う。癖になる、という言葉がいちばん近いだろうか。町子は癖になる。町子のいない毎日を、もう私は想像できなくなっていた。
「だめなものはだめなんですね」しまいに、わたしもヤマシタさんと口をそろえて言っていた。ずいぶんと好きな詩人だったはずなのに、好きでもだめなものはだめなのかもしれないという気分に、支配されていた。
時間がたった、と唐突に思った。そう思ったとたん、またぶるっと震えがきて、今度こそ鼻の奥がつんとしかけたが、我慢した。駅に着いて電車から降り、周囲をみまわすと見慣れた景色があった。何でもなく生きて死んでゆく。確かめるようにつぶやいてから、改札への階段をのぼりはじめた。