『希望の国のエクソダス』村上龍(文春文庫)
エクソダスとは、旧約聖書にある出エジプト記(モーゼのエジプト脱出の物語)。 そこから大量の国外脱出の事を言う。 その他以下のような事柄にも用いられる。2017/06/18
18年前に近未来小説として書かれた本。
「この国には何でもある。本当にいろいろなものがあります。だが、希望だけがない。」
80万人もの中学生が、一斉に学校を捨てた。
意思を持った中学生達が、自分たちの能力で大金を稼ぎ、ユートピアを作り上げていく物語。
この本を自分が中学生の時に読んでいたら、どう変わっていただろう。
ゆっくりと死んでいる、幼なじみはそう言ったが、それは多くの日本人に共通の気分だったかも知れない。日本人にとって重要な何かが音を立てて崩れていくような不安感が1990年代からずっと続いていたのだ。結局のところ、それは閉塞感だったと俺は思う。
「円」がなくなる未来なんて考えたこともなくて、平和ボケしている純日本人な自分に驚いた。本の中でも「危機」で終わっているけれど。
仮想通貨もどんどん日常に溶け込んで来ていて、日本人の人口が急激に減少する近未来。アジア共通通貨ができる可能性だってありえなくはない。
関口さんは反乱を起こしている中学生のことがわからないとおっしゃいました。わかるわけがないんです。中学生だけではなく、他人のことはわからない。もちろん自分のことさえわからないし、未来のこともわからない。わたしたちは、終戦直後と違って、そういったことがわからないということにやっと気づいたわけです。だからこそ知識や仮設や検証といったことが必要になってくるわけで、これは進歩だとわたしは思います。
わからないことから。わかりあえないことから。
中学生達が、北海道に作り上げたユートピア「野幌」。ノホロ。
ノッポロという読み方で実在する地域なんですよね。
野幌が地元に近いからイメージがつきやすかったこともあり、感想を話し会いたくて、帰省時に同じく本好きの母に「希望の国のエクソダス、読んだことある?」と聞いたら、「あんたそんな本読んでるの。恋愛小説でも読みなさい。」と言われた「婚期?なに?それっておいしいもの?」と思い続けているアラサーは、わたし。南無三!
おれは関谷さんに自分の編集部にいる同年配の女と全然違うものを感じていた。うまく言えないが、彼女は普通な感じがした。こうやっておれたちと一緒にいても、さっき中村君と一緒のときも、彼女には無理をしている感じがまったくなかった。
常に人の目を・評価を気にしたり、競争があったり、常日頃ストレスに晒されている私たちの「普通」ってなんなのだろう。
自分が好きなものを好きだといえず、嫌いなものにも蓋をして、「社会」というよくわからないルールのもとで生活することが「普通」で「自然」なのだろうか。
わからないことから、わたしは語彙を獲得していきたいし、
わかりあえないことから、個々人との距離を縮めていきたい。
最近読んだ本の中で一番、自分の生きる「希望の国」と、その国で生活していく自分の未来を考えた本だった。
なんだかまた転換期に入って来たのかな。