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こつこつ読書感想文📝

『センセイの鞄』川上弘美(文春文庫)

お得意のこちらで知って。

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ほんっと、過去の名作の類をぜんぜん知らないので、誰かのおすすめ頼りばかり。

「日本語って、うつくしいなあ」「きれいな響きだな」と読んでいて何度も感じた。うれしい出会いでした。

 

センセイもツキコさんも、素敵な大人だったなあ。

 

お付き合いするひととは、トントントンっていってきたものだけど、いつの間にか手放せないひとになっているっていうのもいいなあ。

しずしずと進む恋愛、憧れます。

一人だった。一人でバスに乗り、一人で街中を歩き、一人で買い物をし、一人で飲酒した。センセイと一緒に居るときも、以前一人でことごとを行っていたときと、心もちに変わりはない。それならばわざわざセンセイと一緒でなくともいいようなものだが、一緒であることの方がまっとうな感じだった。まっとう、というのも妙か。買った本の帯を取るよりも取らずに置いておきたいのと同じ、とでもいえばいいのだろうか。帯にたとえられたと知ったなら、センセイは怒るかもしれない。

失敗した。大人は、人を困惑させる言葉を口にしてはいけない。次の朝に笑ってあいさつしあえなくなるような言葉を、平気で口にしてはいけない。

「育てるから、育つんだよ」と、そういえば、亡くなった大叔母が生前にしばしば言っていた。

大事な恋愛ならば、植木と同様、追肥やら雪吊りやらして、手をつくすことが肝腎。そうでない恋愛ならば、適当に手を抜いて立ち枯れさせることが安心。

大叔母は、語呂あわせのように、そんなことを言い言いしていた。

 

センセイみたいな、恋愛が絡まない大人の飲みともだちがほしいなって思いながら読み始め、最後はツキコさんと同じようにセンセイに恋をしていた。

 

わたしたちは、いろいろなところでデートをした。デートという言葉は、センセイの好んだところの言葉だ。

「デートいたしましょう」とセンセイは言った。近くに住んでいるのに、必ずデートする場所の最寄りの駅で待ち合わせる。その駅までは別々である。待ち合わせの場所に行く途中の電車の中でばったり会ったりすると、おやおや、ツキコさんこれはひょんなところで、などとセンセイはつぶやいた。

 

「デートいたしましょう」なんて、言われてみたいな。

 

地元も離れているので、センセイとツキコさんのような巡り合わせはなかなか難しいなと思いつつ。思い出した思い出。

高校の卒業式で、挨拶に言ったら「卒業おめでとう」ってハグしてくれた先生がいたんですよね。途中で辞めた放送局の顧問の先生。いつも、アナウンス原稿を「面白いね」って褒めてくれたの。一度、ラジオドラマの話も作らせてくれて、そのあと大会用のドラマも書かないかって言ってくれたのに、辞めてしまった。

先生にしたら、当たり前の普通のことだったのかもしれないけど、やっぱり他人から認められるって、わたしにとっては特別なことだったから、今でも色々覚えている。

そんな先生が、ハグしてくれたとき「わー!」って、「わーー!!」って、思ったの。

年上すぎて、恋とかそんな感情は思いつきもしなかったけど、ああ、卒業するんだなって、その瞬間にやっと体に染み込んだというか。よくしてくれたのに、辞めた負い目も感じていたのかな。

その思い出は今でもきれいに発色しているから、わたしにとって、なにかひとつのポイントなんでしょうね。

 

今も、フェイスブックに映画評をよく書いてらして、素敵な先生です。

センセイとは違うけど、わたしの先生。

お元気かしら。

 

センセイの鞄 (文春文庫)

センセイの鞄 (文春文庫)