『憧れの女の子』朝比奈あすか(双葉社)
受精卵は最初こそ女の子の体を作ろうとするそうだ。
X染色体だけなら順調に女の子に仕上がっていくが、Y染色体が紛れ込んでいると、やつらはできあがりつつある女の子の体に、男の子の要素を加えてゆく。精巣をつくり、男の子らしさを誘発するためのホルモンシャワーを浴びさせて、将来の男性化プログラムを赤ん坊のちいさな体にしっかり組みこませる。
おれという生命体は、出だしのほんの一瞬は、女だったのだ。
「憧れの女の子」P24
「生」と「性」に関わる、表題作含む短編5編。
憧れの女の子
「次は女の子を産むわ」
妻の宣言から始まる、子作りと夫婦の話。
世界は終わらない。まだ逞しく、ふてぶてしい。(P61)
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ある男女をとりまく風景
センギョウシュフのマスミと、ジュン。
自分のなかのジェンダーの固定観念にはっとする。
読んで騙されてほしい。
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弟の婚約者
このまま、たぶん四十を過ぎても、五十になっても、母のもとで、わたしは「女の子」だ。(P125)
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リボン
いわゆる「ゲイ」や「オネエ」とまわりから言われるタケルが経営するカフェに新しいアルバイトがやってくる。
道華の弟。偽装留年する大学4年生。
タケルは彼が何を考えているのか、全然わからない。
さみしいという感情こそ、XX、XY関係なく、神は平等に与えた。(P210)
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わたくしたちの境目は
妻の初子が亡くなって一年が過ぎた。
初子は五十で乳がんをやり、左胸を摘出していた。あの時の妻が、すでに鰐男たちの欲望の対象ではなく、男女の差さえ縮まり果てた姿であったとしても、その体には一瞬一瞬のちいさな記憶の煌きが無数に刻まれていたはずだった。
その輝きたちがただひとつの乳房を求めた。(P258)
とにかく朝が来たら着替えること。着替えるのをやめたら、あっという間にアア……だからね。(P216)
たとえば、恋をした時。
性別があってよかったな〜なんて思うこともあるけど、
性別以上に同じ人間のはずなのに、なんでこんなにもまだまだ「男性はこうあるべき」「女性はこうあるべき」で溢れているんだろう。
性別からもっと自由になれれば、きっと変わる。わたしから、変わらなきゃ。
全てテーマは違えど、全てそんなことを考える短編集。